2021年春アニメとして4月5日より放送中のアニメ「恋と呼ぶには気持ち悪い」。
昨今のライトノベル発のトリッキーなラブコメに比べ、どこか平成初期のトレンディドラマ風味を感じるストーリーに、思わず懐かしさを感じています。
月曜日の夜にちょうどいい、このアニメについて考えてみました。
このラブコメの初期設定って何だったっけ?
この作品の設定は、ひょんなことから普通の女子高生にイケメンサラリーマンが恋をするという内容です。
あらすじ
イケメンのエリートサラリーマンで女癖の悪い天草亮は、ある日、駅の階段から落ちかけたところを見知らぬ女子高生に助けられる。
その日、亮が帰宅すると、妹の親友が遊びに来ていた。
それは亮を助けてくれた女子高生・有馬一花であった。お礼にとキスやデートなど、何でもしてあげるよという亮に、一花は「気持ち悪い。助けてもらったお礼が自分って何考えてるんですか?」と罵倒する。
今まで女性に言い寄られるばかりで自分から告ったことがない亮は、彼女の反応に衝撃を受け、その瞬間、彼女に熱烈に恋をする。
それ以来、亮は一花の気持ちにお構いなく一方的にストレート過ぎるアプローチを続け、一花はひたすら気持ち悪がり「クズ」「変態」「ストーカー」などと容赦なく罵倒する日々が繰り返される。
ラブコメの要素には恋愛に対する障害と意外性が必要ですね。
本作は主人公の有馬一花にとって、最悪の再会こそが結果として障害そのものでした。
そして同時にこの再会時の一言こそが物語の重要な設定でもあります。
天草亮からのイケメン的アプローチを「気持ち悪い…」と拒絶してしまったことで、彼の新たな扉を開いてしまいました。
とっさの一言だったのか(もちろん)本心ではないはずですが、イケメン耐性がない女子高生にとって冗談ともつかない一言がどこまでも物語を引っ張っていけるのか、結果としてシンプルに亮の心に火を付けます。
最初は思い通りにならない女子高生に半ば意地になっているのかと(3話くらいまでは)疑いたくなりますし、普通に裏があるのでは思ってしまいます。
(明らかなイケメンのパワープレーに見えました。なびかないわけない。)
それはMっぽいキャラクターを演じているのか、女子高生をからかっているのか、イケメンの狩猟的な感覚なのかと。
社会人としての評価や仕事の順調さ、女子受けの良さ、客観的な完全無欠さを見ればそうなりますよね。
でも、それが彼の本心だということがだんだん分かってくることで、彼の純心さが際立って行きます。
本作は亮の思考が従来の少女漫画の乙女の側に位置している意外性こそがポイントなんでしょうね。
分解すると2人の乙女の想い(片方は男ですけど)が交錯するような、時間差の対比軸が存在します。
しかしながら、複雑なようで根っこは非常にシンプルな設定なのかもしれません。
揺れ動く一花の気持ちが少女漫画のテンプレ
一花は亮を避けているようで、嫌っているわけではありません。
元々、亮のことをイケメンと認めているからこそ、不釣り合いな自分への好意を受け止めきれず、からかわれていると考えています。
これは一花の自身の自信のなさによるものでもあります。
徐々に育つ亮へ想いと亮のストレートなアプローチのちぐはぐさも面白いところです。
一昔前の少女漫画にはこういう設定がたくさんありましたね。
「なんでこんな私にイケメンが…」的な感じです。
古くは「花より男子」や現在の放送中のアニメでは「フルーツバスケット」も同じような構成です。
結局は複数のイケメンから好意を寄せられる…。
これって昔の王道の少女漫画を再現しているかのようなストーリーですね。
懐かしさを感じるのは、あえて恥ずかしげもなく繰り返されるこの王道表現が一周回って気持ちいいんでしょうか。
一花の気持ちが追い付くのか、亮の気持ちが維持できるのか
先行している亮の気持ちに対して、徐々に一花の気持ちが揺らぎ、亮のことを想い始めます。
同時に取り巻く環境にもちょっとしたノイズが入ります。
2人の関係を温めるまでに心を揺るがすキャラクターが2人の関係性を見つめ直すきっかけになりそうです。
同級生の田丸快や同じ会社の松島有枝の存在ですね。
むしろ、亮の気持ちがブレずに最後まで維持できるのかが最大の見どころかもしれません。
同じ歩調で始まっていないことでのアンバランスさもこの物語の面白さですね。
安心のハッピーエンド
ネタバレではありませんが、この物語の流れでバッドエンドはありえません。
最後は一花の気持ちを亮に伝えることで2人が結ばれることが読者に求められています。なので安心して見れますね。お約束ってやつです。
この手の昔ながらのラブコメはハッピーエンドありきですから。
気になる方は最終巻で確かめてみてくださいね。
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感想
この物語の不思議なところは、結末が想像できるようなシンプルで既視感のあるストーリーでありながら、どこか最近見れていなかった清々しさと懐かしさがあるところでしょうか?
考察すべきような難解もなく、登場人物たちの心の中でいやらしい雑味はほとんどありませんからね。
見たままで説明もいらず、すぐに没入できる人間関係は意外に最近のアニメではなかったのかもしれません。
ポイントは意外にも純粋な恋模様です。
そういった意味で、最近のラブコメは駆け引きだったり、伏線の回収だったり純粋さが欠落していた作品のほうが多い印象です。
(「かぐや様は告らせたい」、「五等分の花嫁」、「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。」など一筋縄ではいかない作品が多いですよね。)
そんな中で原点回帰のような作品だからこそ、気持ちいいんですね。
今さら言わずもがなですが、逆説のアンチテーゼとして「恋することは気持ちいい」ってことですかね。
初回の冒頭で、亮は大げさに言えば一花に命を救われますが、好きになった直接のポイントがそこじゃないところが可笑しい(笑)。
従来の乙女の側に回る亮と、心が少しずつ育っていく一花の感情、スピードこそ違えど同じベクトルで進むことが誰しも見たことがある少女漫画の思考で紡がれていきます。
となると、やっぱり完全無欠のイケメンの真正のドM心と乙女心(男心)に火をつけたところがタイトルを上手に回収しているんでしょうかね。
シンプルであればあるほど視聴者は勝手に想像して物語を複雑化させてしまうんですが、この作品は意外にも緩いストレートそのものです。
この見逃しの三振に納得させられるんですよ、きっと。
今期SF系やラノベ発の忙しいアニメや、同じ女子高生の出てくるラブコメでは「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。」や「イジらないで長瀞さん」、「幼なじみが絶対に負けないラブコメ」など多くの作品がある中で、なんてストレートな作品なんでしょう。
ほっとしたい月曜日にぴったりの作品ですね。