現在放送中のアニメ「聖女の魔力は万能です」。
”なろう系”全盛の今のアニメにおいて、
エポックメイキングな展開も個性的なキャラクターもない本作において、どこが読者を惹きつけるポイントになっているかを考えてみました。
今までの作品とどこが違うのか、後発作品ならではの仕掛けや差別化を考察します。
改めて、
アニメ「聖女の魔力は万能です」は橘由華により「小説家になろう」で連載されているライトノベルが原作のアニメ作品です。
コミカライズや番外編を含め、2021年4月時点でシリーズ累計発行部数は220万部になり、今回のアニメ化によってさらに増える見込みです。
2017年からの刊行ですので、4年でのアニメ化はかなり早いほうですね。
はじめに、この作品の持つ要素を分解してみます。
1.異世界転移
異世界転移自体は、いわゆる”なろう系”作品において珍しい展開ではありません。
例えば「盾の勇者の成り上がり」や「ありふれた職業だけど世界最強」、最近でいえば「Re:ゼロから始める異世界生活」がそれに当たります。
ここでの区別は同じ異世界でも異世界転生との違いです。
異世界転生の場合は記憶を残したまま姿かたちが変わりますが、異世界転移は現代と変わりない姿で連れていかれるので見かけもそのままの姿になります。
主人公セイは会社帰りの眼鏡姿で転移したことで、後に王子から聖女の従者と勘違いされました。
異世界転移のいいところは、その姿のまま経験や常識も持ち込むために視聴者(読者)の理解が得やすいところでしょうか。
2.チートスキル
異世界転移(転生)の場合は、多くのケースで始まりからチートスキルがあることが定番です。
セイは無尽蔵な魔力と後に聖女の力を発動します。
作品色でもありますが、あくまで控えめな性格で能力を試しながら成長していきますのでいきなり聖女の力を誇示するようなことはありません。
この段階的な成長と力の発動条件の確認こそが物語序盤の見どころなんでしょう。
本人も聖女の力の発動条件が分からず、偶発的に表れる力によって奇跡が起こったような演出とインスピレーションを感じさせる流れでした。
3.スローライフ
物語序盤は薬用植物研究所の研究員として触れる出会いが中心でした。
薬草やポーション作りの好奇心から結果として突出する能力の一端を垣間見るマイペース感が見どころでもあります。
当然本人は望まなくても周りがほっとかないのがお約束でしたね。
第3話はホークさんと街ぶらデートの回でした。
王宮ばかりでは市井の暮らしは分かりません。意外にもホークも庶民的な食べ物が好きだったり、死角のなさがズルいところ。
森や研究所、王宮から離れることで、後に万人が求める聖女の力の必要性を感じさせる一コマでした。
牧歌的な雰囲気がありながら、魔物討伐での緊張感や危機感などの緊張と緩和が随所に挟まれているので、スローライフ感はほかの作品に比べて弱めかもしれません。
4.イケメン
この作品の最大の特徴はどこにいってもセイに好感を示す悪意のないイケメンたちの存在でしょう。
作者が女性ということもあり、少女漫画の理想像を惜しげもなく表現したかも?と勘繰りたくなるイケメンとイケボですね。
CVも櫻井孝宏さん、江口拓也さん、小林裕介さん、梅原裕一郎さんなど当代の低音イケボが似合う声優さんを集めています。
落ち着いた作品を演出する上でも、低音の語り口は重要な要素かもしれません。
5.女性が主人公
意外かもしれませんが、異世界転生もので女性が主人公の作品自体が少ないのかもしれません。
やはりラノベや深夜アニメは中二病の理想像ですからね。男性目線が多いです。
今期のアニメ枠の「スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになっていました」に加えて、「本好きの下剋上」「蜘蛛ですが、なにか?」「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」など、異世界転生ものでも女性主人公作品はある程度ありますが、異世界転移ものって探してもないんですよね。
5つの要素があるのは「聖女の魔力は万能です」だけ
長々と要素を書き出しましたが、この5つの要素がすべて揃っている作品自体が本作品のみと思われます。
試しにラノベ発のアニメ作品で集計してみました。(以下表)
イケメン(美少女)に対しては評価が分かれるかもしれませんが、少なくとも男性主人公での美少女(美女)と女性主人公のイケメンと区分けするとこうなります。
どの作品も異世界転移(異世界転生)とチートスキルはセットのようなものですね。改めてラノベ作品の特徴なのでしょう。
ただ、異世界転移とスローライフの組み合わせの作品は意外に見つかりません。
スローライフの作品は異世界転生して、前世でできなかったことをすべてをやり直したい作品が主流のようです。「神様に拾われた男」、「スライム倒して300年、知らないうちのレベルMAXになっていました」などですね。
異世界転移 x 女性主人公 x スローライフ x チートスキル x イケメン
異世界転移を異世界転生に置き換えたとしても意外にこの5つが揃う作品は稀有ですね。
考察
冒頭でも触れましたが、「聖女の魔力は万能です」は突出した個性がある作品ではありません。
あえて言うならば、ラノベでありそうな要素をまんべんなく含んでいる欲張りな作風なのかもしれませんね。
ただし、1つ多く含むだけで”ありそうでなかった既視感と満足感”が視聴者(読者)の懐に入ってくるのだろうと思われます。
ラノベ作品の特徴はチートスキルで決まるといってもいいでしょう。
逆に言えば”どうせ俺TUEEE系の反則チート”にそろそろ飽きが来ているころでもあります。
そこでシンプルに初期から余裕な環境に身を置くのではなく、人間関係の構築や成長の過程を描いていることも物語に引き込むいい導入だったのかもしれませんね。
よく似た傾向があるのは、序盤の「盾の勇者の成り上がり」の不遇さと段階的に判明していくチート能力と成長ですかね。
物語が進むにつれて、主人公セイに聖女として自覚と使命感が芽生えてきます。
これはスローライフと相反するような組み合わせになるかもしれませんが、違和感なく受け入れれる流れがこの作品にはあります。
そして悪意のない世界。
誤解はあったかもしれませんが、王子を含め心底性悪な人間は出てきません。それは物語を通してスローライフに通じるものがありますね。
ただし牧歌的な物語と魔物の危機感が交錯する流れはいい意味で緊張感もありました。
(悪意の部分はすべて魔物が担当してくれているようです。)
物語を特徴付けるには、どこで差別化するのかによると思います。
従来の作品であれば、チートスキルと使命感(目的)になると思います。この2つがしっかりしていれば大抵の道筋は迷わないでしょう。
その他に1つ2つの要素を加えることで、ラノベ系としての個性が出てくるのでは?と過去の作品を見て傾向を感じます。
「聖女の魔力は万能です」においては、あえて5つ要素を小出しにして実装していくような流れがあり、視聴者(読者)は違和感なく欲張りな要素にまみれていくような面白さを感じるのではないでしょうか?
要素として4つくらいなら傾向として珍しくないですが、5つ以上となってくると意外に少ないことが分かりました。
なぜだろう…アニメには音楽も含めたゆったりとして流れが毎回ありますね。
ホークさんとの恋の行方も気になりますし、是非続編が作られるといいなと思う良作です。
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